空き地の亡霊
家の裏手の森の中には、ぽっかりと開けた空き地があって、そこに遊んでいる亡霊がいる。寂しいと、彼女は言う。悲しいと、彼女は言う。残ってと懇願し、あたしが帰るときには泣く。仲間になってほしいのだと。永遠に一緒に遊ぼうと。土の下で彼女の隣に横たわろうと。永遠の眠りのなかで、永遠に遊ぼうと。
***
母は昔、畑の真ん中にぽつんと横たわるあの森は、父が呪った場所だと言っていた。幼い頃のあたしは、それを、魔女がするみたいに父が本当に呪いをかけたのだと思っていた。そう思えば、近づかないのが当然だったはずだ。なのにあたしは、磁石に吸い寄せられるように、その森へ惹かれていった。
あの森で見つけたのは、呪われた土地などではなく、魔法の土地だった。果てしない重労働を生み出す、醜い傷跡のような畑という砂漠のなかの、オアシスだった。丸一日畑で働かねばならない日には、こっそり森へ抜け出して休んだ。そこで、あたしは森の妖精になれた。木々の間を踊り抜け、小川をじゃぶじゃぶと渡り、外にいるときよりもずっと自由だった。
父に「遊びに行っておいで」と言われたときも、あたしは森へ走った。兄弟も姉妹もいないあたしにとって、あの冒険こそが遊びだった。でも、学校へ行って知った。遊びとは、ゲームのことなのだと。遊びにはルールがあるのだと。遊びとは、ほかの子どもたちと関わることでもあって、その子たちは、あたしの汚れた爪や、つぎの当たった服や、ハンカチに包んだ昼食を笑いものにした。
十歳のある日、あたしは畑の作物にゾウムシがついていないか点検するよう言われていた。目がかすんで、頭が痛くなるまで続けた。それから、森へ抜け出して、松とトウヒの深い香りで頭をすっきりさせようとした。
あたしは森の中を彷徨った。目を半ば閉じて休ませ、記憶を頼りに道を進んだ。小川の近くまで来たとき、木々の間に何かが動く気配を捉えた。先週見かけた子鹿かもしれないと思い、ぴたりと立ち止まった。だが、あたしの妖精の空き地を横切ったのは、ピンクと白のひらひらしたものだった。
あの生き物を妖精だとは、思い違いしなかった。そんなものは存在しないと、知っていたから。母がそれはもう、はっきりと言っていた。村の店で見つけた妖精伝承の本を読んでいるところを見つかったとき、母はそれを火の中へ放り込んだ。邪な言葉だ、と。良い子に必要なのは、聖書だけだ、と。
両親が寝静まってから、あたしはどうにか本を助け出した。でも、暖炉のところから本が消えていることに、母が気づくのは分かっていた。だから、家にあったもう一冊の本とすり替えた。聖書だ。見分けがつかないくらいに燃やして、その場に置いておいた。妖精の本のための、取り替え子として。それは、案外ふさわしいことのように思えた。
自分がしたことの重さを、分かっていなかったわけではない。でも、妖精の話を読んだだけで邪になるというのなら、あたしが邪なことをしたとしても、誰も驚くには当たらない。母が聖書の紛失に気づくまで、一ヶ月かかった。しかも、そのときでさえ、教会に置き忘れてきたと思っただけだった。
それからは、妖精の本を床板の下に隠しておいた。ページの大半は焦げていたけれど、形は残っていた。あたしは、よくそれを読み返した。けれど、黒ずんだ表紙の中に詰まった不思議は、ただの物語にすぎないことも、ちゃんと分かっていた。あの空き地を「妖精の空き地」と呼ぶのは、あたしの密かな楽しみだった。そこに本物の妖精などいないと、分かってはいた。だが、あの日、そこには、同じくらい有り得ないはずのものがいた。
亡霊だ。
アメリア・カーターが、あたしの妖精の空き地でピルエットを踏んでいるのを見た瞬間、あれが幻影だと分かった。かわいらしいピンクのドレスを、陽の光が透かしていた。白いオックスフォード靴は、地面から数センチ浮いたまま踊っていた。それ以外は、いつもと変わらず完璧な姿だった。死んでいてもなお、頬はつややかに輝き、黒い巻き毛は、くるりと回るたびにふわりと広がった。
彼女はあたしに気づくと、回りかけたところで止まった。
「こんにちは!」と彼女は呼んだ。「その木の後ろにいるの、見えてるわよ。来て、おしゃべり——」かわいらしい顔が、熟していない林檎をかじったときのように歪んだ。「なあんだ、あんたか」
あたしは近づいていった。泥だらけの作業着と、いとこのお下がりの大きすぎるブーツを隠すように、木陰に身を潜めながら。彼女の唇には、見飽きたあのしかめ面が浮かんでいた。
「あんたって、いつも汚くない?」と彼女は言った。
あたしは言い返したかった。あたしはいつも清潔よ。おそらく、あんたより頻繁に風呂に入っているわ、と。違うのは、弁護士の娘は、放課後に畑を掘る必要がないってことだけだ。彼女には、人形にきれいな服を着せて、ほかの娘の悪口を囁く以外、何の仕事もなかった。
先月、アメリア・カーターが、教会のピクニックから姿を消した。一週間、町中の人々が彼女を捜した。あたしも加わりたかった。アメリアが一度もあたしに優しい言葉をかけたことがなくても、捜索を手伝うのが筋だと思えた。父は許さなかった。両親が話しているのを、小耳に挟んだことがあった。渡りの労働者がアメリアをさらって、ひどいことをしたのだろう、と。父は、捜索隊がどんな恐ろしいものを見つけるかを怖れ、あたしが加わるのを許さなかった。
ほかの噂も耳にした。アメリア・カーターを襲った恐ろしい出来事は、ずっと身近なところから来たのだと言う人たちがいた。
トミー・ライオンズ。人々が囁いていたのは、その名前だった。トミーは十四歳で、うちの隣の農場に住んでいた。ピクニックで、彼がアメリアに、ピンクのドレスがとても似合っていると言うのを聞いた者がいた。彼女と歩いているところも、囁き合っているところも目撃されていた。彼女が消えたあと、捜索隊は彼の両親の敷地をくまなく調べたが、アメリアの痕跡は何ひとつ見つからなかった。
ほどなく話は変わり、通りすがりの誰かが彼女をさらったに違いないと、人々は言い始めた。彼女はとてもかわいい子だったから、子のいない哀れな金持ちの夫人が連れ帰らずにいられなかったのだ。今ごろアメリアは、大都会でお姫様のように暮らしている。人々はそう信じたがっていた。だが、この空き地にいる彼女の亡霊は、まったく別の物語を語っていた。
「ここ、どこ?」と、アメリアはきょろきょろしながら尋ねた。
「うちの農場の森よ」
彼女は顔をしかめた。「こんな場所、知らないし……ああ、あの気味の悪い森ね。またパパが、あなたのお母さんのところへ来たんでしょ? 繕い物を頼みに。パパ、繕い物がすごく多いのよ」と、青い目をくるりと回した。「家に戻りましょ。終わったら、パパ、すぐに帰りたがるから」
「あなたのパパは、ここには来ていない。何か……覚えてる?」
彼女はむくれて、どすんと丸太に座り込んだ。
「アメリア?」と、返事がないので呼びかけた。
待っていると、ようやく彼女が囁いた。「なにか、変な気がするの」
「何を覚えているの?」
彼女は質問を無視して言った。「私、ここから出られないの」
あたしはじりじりと近づいた。彼女の手の届かないところにいるよう、気をつけながら。妖精のことはよく知っていたが、亡霊のことは何も知らなかった。近づきすぎたら何をされるか、怖かった。
「出られないって、どういうこと?」と尋ねた。
彼女は立ち上がり、空き地の端に向かって大股で歩いた。端に着いたとたん、壁にぶつかったかのように、跳ね返された。
「私、どうなっちゃったの?」と彼女は言った。
あたしは空き地のさらに奥へ進んだ。前方に、土が掘り返された場所があった。穴が掘られ、埋め戻され、芝が敷き直された跡。十二歳の少女の身体が横たわるのに、ちょうどいい大きさの場所だった。
アメリアがつかつかと近づいてきて、腰に手を当て、あたしの前に立ちはだかった。「質問してるんだけど」
あたしが黙っていると、彼女は鼻を鳴らし、くるりと背を向けた。「もういいわ。どうせ、あんたと話したくなんてないし。パパが話せって言うから、仕方なくよ。何度も嫌だって言ってるのに。あんたって、ほんと退屈。馬鹿で、退屈で、汚い」
あたしは立ち去ろうとした。
「待って!」と彼女が言った。
あたしは空き地の端を少し過ぎたところで立ち止まった。振り返らなかった。彼女がすすり泣く中、ただ突っ立っていた。
「私、おかしいの」と彼女は言った。「どうやってここへ来たのか覚えてない。それに、出られない。馬鹿って言ったの、謝るわ。あんたは馬鹿じゃない。クラスで一番頭がいい。誰かが原因を突き止められるとしたら、あんたよ」
振り返ると、彼女の顔に、見慣れた別の表情が浮かんでいた。宿題を手伝わせたいときにいつも見せる顔だった。彼女はあたしを賢いと褒め、助けを乞う。あたしは手伝う。でも、それで何かが変わることはなかった。彼女は相変わらず、陰であたしの悪口を囁いた。いつも陰でとは限らなかった。
あたしは、土の掘り返された場所を振り返った。アメリアは好きではなかった。憎んでさえいるかもしれなかった。でも、彼女が何をしたにせよ、こんな目に遭っていいはずがない。
彼女は真実を知らされるべきだったのか。自分が死んでいるのだと? それを変えられないのなら、いや、それが彼女の助けにならないのなら。
「妖精の罠よ」と、あたしは言った。
彼女はまた顔をしかめた。「なんですって?」
「妖精に会いに、ここへ来たんでしょ」と、あたしは切り株に腰を下ろしながら言った。「この前、パパと来たときに、あなたはあたしの後をつけてここまで来て、あたしの妖精の話を聞いたのよ」と、あたしは嘘をついた。「覚えてる?」
彼女は首を振った。
「そう、話したのよ。それで、あなたは妖精に会いに、またここへ来たんでしょ。そして、罠に捕まった。妖精って、そういうことをするの。音楽を奏でるのよ。それを追っていくと、踊りに捕まってしまう。あたしが通りかかったとき、あなた踊っていたでしょ。覚えてる?」
彼女はうなずいた。
「どうして踊っていたの?」と尋ねた。
「退屈だったから」
「違う。妖精の音楽が聞こえたから、踊っていたのよ。忘れちゃっただけ」
「じゃあ、どうすれば出られるの?」
あたしは知らない、でも調べる、と言った。妖精の本を持っているから、答えを探して、見つけたら戻ってくる、と。
あたしは、一ヶ月近く足を運ばなかった。その頃には、彼女はいなくなっているだろうと思っていた。亡霊は一時的にここへ閉じ込められているだけで、やがて門が開き、どこへともなく旅立つのだと。でも、そんなことはなかった。戻ってみると、アメリアは、あたしが置き去りにした場所にそのままいた。
ほっとしたことに、彼女はあたしの約束を忘れていた。あたしがそこへ来ていたことさえ、覚えていなかった。彼女が踊っているのを見つけて、あたしたちは、初めてのときとまったく同じ会話を繰り返した。またあたしは、答えを見つけると約束した。また一ヶ月、足を運ばなかった。また戻ると、彼女の亡霊はあの空き地にいて、まだ囚われていて、理由も忘れたままだった。
ほどなくして、人々はアメリアを捜すのをやめた。二年が過ぎ、彼女の両親は次の子を授かった。女の子だった。思い出として、その子をエイミーと名付けた。まるで、両親までが、アメリアが見つかる望みを捨てたかのように。
やがて、町はアメリアのことをすっかり忘れてしまったようだった。人々の記憶から彼女が薄れていくにつれて、彼女自身の記憶も薄れていった。空き地の亡霊は、自分が誰なのかを忘れた。どこにいるのかも忘れた。以前の自分に別の人生があったことも、空き地の外に別の世界が広がっていることも、忘れてしまった。脱出を手伝ってほしいと、彼女が頼むことはもうなくなった。空き地が彼女の世界のすべてになり、彼女はそこで、いつまでも踊り、遊び続けた。
あたしのことも忘れた。生きた身体を持つ頃の彼女にとって、あたしが何だったかということを。あたしは、彼女の親友になった。彼女の、たった一人の友達になった。
「遊びましょ」と彼女は言った。
「あたしは、遊ぶには歳を取りすぎてるわ」
「遊ぶのに年齢なんて、関係ないわ。来て。来て」
あたしは彼女と遊ぼうと試みた。上手くは遊べなかったけれど、彼女はもう気にしなくなっていた。彼女は、かまってほしくてたまらない子どものようだった。いつも必死で。いつも寂しくて。いつも一人で。
あたしが帰らなくてはならなくなると、彼女は必ず言った。「行かないで!」
「家事があるの。宿題も」
「そんなの、しなくていいじゃない。遊ぼうよ。ここにいて」
「ずっとは、いられない。覚えてるでしょ? 何度も話したじゃない。あたしは、ここに住んでいるわけじゃないの」
「でも、住めるわよ。ここは素敵。陽の光があって。家事も、学校もない。ずっと、踊って、遊んでいられるのよ」
「あたしは、永遠に踊ったり、遊んだりしていたいわけじゃない」
あなたみたいにはなりたくない。土の下で、死んで、腐っているなんて。
ときどき、真実を話そうかと思った。そうすれば、あたしがどうしてここに留まれないのか、彼女にも理屈が分かるだろう、と。でも、話さなかった。話しても、意味はない気がしたから。
いや。彼女は、もう分かっている気がした。自分がなぜ、そこに囚われているのかに気づいていて、「仲間になって」と頼むとき、自分がまさに何を示唆しているのかを、正確に分かっている気がした。
歳を重ねるにつれ、あたしは足を運ぶ回数を減らし、最初の頃と同じように、月に一度だけ訪れるようになった。訪問がどれほど気の重いものになっても、あの子には、それくらいの義理があった。
やがて、あたしは十五歳になり、学校を辞めなければならなくなった。母は言った。あたしは十分に教育を受けた、と。もう、別のことのための時間だと。望もうが望むまいが、人生を先へ進めるときだと。
もうすぐ家を離れることを、あたしはアメリアに話さなかった。残酷すぎるから。だから、彼女と遊び、彼女の話を聞いた。ある日、旅立ちの準備がほぼ整った頃、彼女が何かに目を留め、くるりと振り返って言った。「誰か、そこにいるの?」
あたしは素早くあたりを見回した。森には、誰もいないように見えた。アメリアは空き地の端まで走り、目に手をかざした。
「見たわよ」と彼女は言った。「出てきて、一緒に遊びましょう」
返事はない。それから、左手の方で、小枝がぱきりと踏みしだかれた。
「誰?」と、あたしは物音のほうへ歩きながら呼んだ。
木の陰から、人影が現れた。トミー・ライオンズ。あたしの未来。両親の言葉だ。あたしが十六歳になったら、トミーと結婚することになっていた。両家は、二つの農場は、一つになる。それが、あたしの未来だった。運命だった。あたしの目の前に立っていた。
「誰と話してた」とトミーが訊いた。
「あんたよ」
「その前だ。あの空き地で、お前が誰かと話しているのを見た。声も聞こえた」
「独り言よ」と、彼の脇をすり抜けながら言った。
彼は、痛いくらいの強さで、あたしの腕をつかんだ。「独り言を言うのは、気の触れた人間だけだ。お前、おかしくないよな?」
おかしい、と言ってしまおうかと考えた。そうすれば、彼は結婚を断るかもしれない。でも、助けにはならない。トミーに拒まれれば、あたしはもう嫁げない。母の終わらない家事と、アメリアの終わらない懇願に、ここで縛り付けられたままになる。
「ごめんなさい」とあたしは言った。「もうしません」
彼は空き地をじっと見た。それから、目を細めてあたしを見た。あたしは腕を振りほどこうとしたが、彼は握りを強めただけで、「あそこへは近づくな」と言いながら、あたしを家のほうへ引っ張っていった。
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